記憶を紡いで、前に進んで

嵐の前の凪のような

――現実を率直に綴ろうと思う。彼らが互いに歩み寄ることなど無かった。というより、その考えの――根底からおかしかったのだ。

彼よりも少し背が高く、彼よりも薄い胸板、目に見える焔のよりも朱く、長い髪が奥に潜めた髪よりも更に獰猛な朱い眼を隠す。

――混合劣化変異体。漆黒を纏うクロメと同じ様に、また彼も朱を纏う。朱唇皓歯(しゅしんこうし)非常に美しい女性を指す例え。口紅を塗ったような綺麗な朱。

本来ならば女性に使われる言葉だが、彼の風貌を風刺したように――クロメと同じく銘打たれている。通称、朱ノ薔薇。

魔術師の家系に多く発現する遺伝子の劣化現象。劣化した遺伝子がその他の遺伝子と交わり合うことで引き起こるのが混合劣化変異。ある部分に特化しているらしい。