嵐の前の凪のような

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怠慢な態度に溜め息を吐いたクロメに狙いを定め、僻地軍の団長は集中的に戒めの毒を吐く。それは異国人に告げてはならない差別用語。     黒髪黒眼とは――死神が居るなあ。 この国――ひいては、この世界で黒髪黒眼の人間は存在しない。過去に認知されていない。世界の全てを網羅している訳では無いだろうが、ただ黒髪黒眼という黒は死神を彷彿とさせる。 「いま、なんてった?」 鈍く低く短く重い声がクロメを嘲笑って騒然としていた軍団を凍り付かせた。この声の主はクロメではない。 クロメの前に立つように、クロメを庇うように前に立った師団長である。実際、クロメは容易い挑発に乗るタイプではないので諍いが起きるはずもないのだが、彼は違った。自身以外が挑発された時に、先陣を切って、諍いを起こす。 面倒臭さがりのクロメとしては、愛想笑いで誤魔化そうとしていたが、どうやらそうも行かなくなったようだ。  
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