嵐の前の凪のような

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それはさておき。彼が仕事を終え、報告に向かおうとしている場所がある。それがこの世界で二番目に大きな都市――王国とも言える世界の北方城。 彼はそこで客員剣士をしている。他国から迎え入れられた彼は、この国に従属する訳でもなく、ただ任務をこなしては宛ても無い旅に出る。もうかれこれ、ここで三ヶ国目になる。 もうすっかり夜になり、星が満天に煌めいているというのに、城下街は激しい喧騒に包まれ、雑多な匂いと足音や話し声で賑わっていた。 「――おや、珍しい。こんな夜中までお仕事かい、クロメさん?」 酒場の店先で大きな背伸びをしていた若い女将さんが彼をクロメさんと呼んだ。彼の名前はクロメでは無いが、彼の知り合い達は何故か彼をクロメと呼んで、彼を労う。 「面倒臭いけど、これも任務だからね。それよりも珍しい果物取って来たから、息子さんに食わせてやりなよ。風邪引いて寝込んでたろ?」 彼はニコリと笑うと、年代を感じさせる古臭いフードサックに手を伸ばした。  
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