嵐の前の凪のような

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彼の朝は同じ客員剣士の人よりも少しだけ早い。かと言って市場で働く人達よりもかなり遅い。詰まるところ、少しだけ他人よりも早起きというだけ。 何をするでもなく布団から抜け出すと、朝の寒さに身を震わせながら布団を整え、洗顔をし、身支度を終え、部屋に鍵をして、城の中庭に向かう。 ここで日課の素振りをこなし、中庭の端にある需脈から魔力の受給を受ける。呼吸を地の呼吸と同化させ、その精神を不動にすることにより、自他統一状態になる。その状態から地が受ける魔力の供給を、我が身にも受けること。それが魔力受給の姿。 この国の人間は大気中の空気の中に含まれる微量の魔素(魔力元素)を自然に取り込み事が出来る。出来るというより勝手に成される。呼吸をするのと同じ要領で、特に意識せず行われる事。 しかし彼は異国の人間。国によっては全く魔力を受給出来ない国もある。そもそも魔法という概念が無い国もあり、魔法が無ければ魔力も発生せず、その国では魔法が使えない。そんな国を旅した事も彼にはあった。  
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