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「だって戻って来ないんだもん。店長上司でしょ。早く戻って来い、って命令してよ」
「あいつ、タイムカード切ってった。とっくに仕事じゃないんだよ」
「そうなんだ」
じゃあ、アタシとの約束すっぽかして行っちゃったのも、戻ってこないのも、穂積の意思か。
「来いよ」
「は?」
ぶっきらぼうな命令に、眼下の風景に、穂積の姿ばかり探してたアタシは、思わず上を見上げる。
「こんな雨の中、いつまで待ってるつもりだよ。送っていくから、乗ってけ」
「やだ」
「つまんねー意地張ってるなよ」
頑ななアタシを、店長は強引に腕を掴んで、自分の車に引っ張っていこうとする。
「意地じゃねーよ。離せっ」
つかまれた腕を、外そうとしても、一層強く、捉えられて。
濡れたコンクリの上を、滑るように、アタシの身体は引きずられる。
「やめろ、って」
「雨でずぶぬれじゃないか。そんな状態のオマエ、ほっておけないだろ」
「ほっとけよ」
やだやだやだやだ。穂積助けて。
アタシを、過去に引きずりこませないで。
悪あがきでしかない、抵抗を試みて、アタシが店長の手の上に自分の手を重ねた時だった。
「ありこっ」
待ち焦がれた、声が、アタシを呼んだ。
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