第9章 戻れない明日

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「だって戻って来ないんだもん。店長上司でしょ。早く戻って来い、って命令してよ」 「あいつ、タイムカード切ってった。とっくに仕事じゃないんだよ」 「そうなんだ」 じゃあ、アタシとの約束すっぽかして行っちゃったのも、戻ってこないのも、穂積の意思か。 「来いよ」 「は?」 ぶっきらぼうな命令に、眼下の風景に、穂積の姿ばかり探してたアタシは、思わず上を見上げる。 「こんな雨の中、いつまで待ってるつもりだよ。送っていくから、乗ってけ」 「やだ」 「つまんねー意地張ってるなよ」 頑ななアタシを、店長は強引に腕を掴んで、自分の車に引っ張っていこうとする。 「意地じゃねーよ。離せっ」 つかまれた腕を、外そうとしても、一層強く、捉えられて。 濡れたコンクリの上を、滑るように、アタシの身体は引きずられる。 「やめろ、って」 「雨でずぶぬれじゃないか。そんな状態のオマエ、ほっておけないだろ」 「ほっとけよ」 やだやだやだやだ。穂積助けて。 アタシを、過去に引きずりこませないで。 悪あがきでしかない、抵抗を試みて、アタシが店長の手の上に自分の手を重ねた時だった。 「ありこっ」 待ち焦がれた、声が、アタシを呼んだ。
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