2819人が本棚に入れています
本棚に追加
「湊くんは、無事家に戻ってきた秋津さんに引き渡しました。
あとのことは…明日話します。――彼女の手、離してもらっていいですか?」
僕の要求に日下部さんは、皮肉に笑う。すっかりヒーロー気取りだな、と。
「嫌だ、って言ったら?」
わざと僕を挑発するように、日下部さんはありこさんの肩にも手を置いて、ぐっと自分の方に引き寄せた。
「アンタに、そんなこと言う資格はねえ」
ありこさんが食ってかかって。
僕には、あるのかな。
そんな迷いを断ち切るように、深く頭を下げる。
「返して、ください。ありこさんは僕のだから」
「へえ」
日下部さんは、意外そうに眉を上げて、目を見開いた。
真意を探るように、じっと見つめる視線に、飲まれそうになりながら、僕はそれを受け止める。
「そんなに大事なんだったら、待ちぼうけさせるようなこと、するなよ」
何処か面白そうに口角をあげると、日下部さんは大きな手を、ぱっと開いて、ありこさんの背中を押した。
拘束が解かれた瞬間、ありこさんは僕の胸に飛び込んできた。
自分の身体の一部が戻ってきたような、安堵感を噛み締めるように、腕を回した。
「おせーよ、ばか」
最初のコメントを投稿しよう!