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ぎゅっと、僕のシャツの胸倉を掴んで、震える声で、ありこさんは言った。
憎まれ口も、けなし文句も、いつも通りの貴女が嬉しい。
「ごめん」
「謝るくらいなら、もっと早く帰ってこい」
「だね」
髪も肩も腕も雨に濡れてて、冷たくなってた。秋津さんの家から走ってきた僕よりずっと。
少しでも、温めてあげたくて、僕はありこさんの身体を僕の腕で包み込む。
「そんなんだから、いったん家に帰した方がいい、って判断しただけだからな」
珍しく自分の行動の言い訳に走る日下部さん。
知ってますよ。
下心でも恋心でもないことは。
だから、やっかいなんだけど。
「ご迷惑かけました」
「思い知った?相沢。オマエの中途半端な優しさで、笠原がどれだけ不安になったか」
悔しいのは、日下部さんの言葉に一言も返せないからじゃなくて。
僕がありこさんを不安にさせたのが、事実だからだ。
何で、それを日下部さんが指摘するのか――。
自分から別れたくせに。
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