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今もありこさんに向いている感情は、僕とはまるで違う種類のものだけど、深さは変わらないのか。
なっさけない僕へのダメ出しは全部、ありこさんにこれ以上、泣いて欲しくないから、ですよね。
そんなに大事なら…は、僕こそ貴方に問いたい。ならどうして別れたんだ、って。
「だから、店長に穂積を責める資格なんて…」
僕の胸にしがみついてたありこさんが、日下部さんを振り返る。
「いいよ、ありこさん」
僕から離れたその顔を、後頭部に手を当てて、もう一度ぽすっと抑えて。
「僕が悪い」
そう言うと、僕はありこさんの腰に腕を巻きつけて、太腿にもう一方の手を添えて、彼女の身体を抱き上げた。
「あい…」
「ほ…」
あっけにとられた声は、ありこさん、日下部さん、両方から起こった。
「穂積おろせ」
「帰ります。…彼女」
僕の肩に手をついて、身を捩るありこさんの動きは無視して、ぽかんと口を開けたままの日下部さんに僕は宣言する。
「あ、ああ」
「過去はともかく、今は僕の婚約者なんで、二度と気安く触れないで、くださいね」
これでもか、と営業スマイル作って言うと、日下部さんが破顔する。
「オッマエ、釘の刺し方怖すぎ」
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