2820人が本棚に入れています
本棚に追加
肩に、背中に、腕に、振動が伝わる。
それはありこさんからのものだって、わかったけど、泣いてるのか、笑ってるのかわからなかった。勿論その理由も。
「ありこさん?」
恐る恐る名前を呼ぶと、今度は、ありこさんははっきり笑い声を立てた。
「な、なに」
「だって、さっきのこれ見よがしなんだもん。穂積さ。実はすっごく負けず嫌い?」
「……」
「そんで、もんの凄く怒ってた?」
「別にっ」
怒りなのか焦りなのか、ともすれば殴りかかりたくもなる感情を、抑え付けるのに必死だった。
僕の車のまん前に来て、僕はありこさんを抱えたまま、助手席のドアを開けた。
ありこさんの脇を掴んで、そのままシートに座らせる。
額に張り付くくらい、濡れた前髪をハンカチで拭いて、車内に積んであった毛布をありこさんの肩にかけた。
「今日はもう行けないね」
約束して楽しみにしてた神野さんのレストラン。
時計とありこさんを交互に見ながら、僕は呟く。
最初のコメントを投稿しよう!