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この飛び降りたという表現方法にはなんの嘘偽りも存在しない。
屋上の大地を蹴り、意味もなく高い柵を超え、5階分の窓を視界の端に捉えつつ、音もなく着地する。
これを『飛び降りる』と言わずにどう言えば良いのか?
オレが何者なのか?
人間なのか?そうでないのか?
そんな些細な疑問はどうだっていい。
そんな事よりも、当時は活気溢れる繁華街であっただろうこの街並みが、人気が無くなるだけでこうまで恐怖や哀愁を感じさせる物になるのかという事実の方がオレはよほど興味深い。
【赤石通り】ここら一帯の地名を冠した通りには入り口に高さ3メートル程のきらびやかな門がある。
人手が無くなっても悠然とたたずむ様はひたすら主人を待つ犬のようでもあり、また逆に「人間なんていなくてもオレは一人でも立てる」と主張しているようでもある。
静寂と暗闇が支配するこの世界では、かのようにつまらない思考でも幾らかの暇つぶしと笑いの種にはなるものだ、と感心しながらオレは門の中へ一歩だけ踏み出した。
世界は今一回転を終えて、また新たな回転を始める。そこに『人』という物が居なくなってもその常識を覆す事はない。
ただ、ひたすらに自らの与えられたら使命にのみ忠実に回り続ける。
世界にとって『人』というのは何ら影響を受ける事のないただのモノでしかないと言外に示すかのごとく。
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