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冗談じゃねぇ。
こんな奴に殺されてたまるか。まだ死んでたまるか。
何度も何度も内心で呟き折れた右足をかばいながら必死に歩き出す。幸い、左足が折れてなかったらしい。
肩、足、全身が震えた。踏み出せば尋常ではない痛みが足の裏から頭のてっぺんまで駆け巡る。
「ぐ、ぅ、ぁああ」
しかしそれでも逃げるしかなかった。それしかできなかった。
一歩進むごとに走る激痛で涙を流しながら、足を踏ん張るあまりに吐血を繰り返し前へ進む。
死にたくない。それだけが思考を埋め尽くす。
「くくっ……きき……けけけけけけけけけけけけ!!」
背後で聞こえる男の甲高い笑い。今までの低い声色とは違う狂喜の声は、聞く者を身震いさせた。
恐る恐る振り向くと男はおぞましい笑みを口元に浮かべてこちらを見ている。
「そんな姿になってもまだ人として二足歩行を選び、生を掴み取ろうとする執着。輝かしいばかりだ」
ゆっくりと帽子を脱ぐ男。そして露わになったその顔を見て言葉を失う。
「!」
男の顔は、人間の顔をしていなかった。
縦長に尖った耳、黒一色の眼球。鋭い犬歯。そして額から伸びる短い二本の硬質的な角。その面は般若と呼ぶに相応しく、皮膚は赤黒く変色していた。
化け物。そう思った刹那。
鬼の姿は一瞬にして消えさり、それと共に俺の左腕はブチリとゴムを引き千切ったような音を鳴らして宙を舞った。
声にならない悲痛な悲鳴。
生きたまま足をもがれる虫はこんな痛みを味わっているのだろうか?
千切られた左腕の断面から夥しい量の血液が流れ、パスタのような神経がニュルニュルと出て行く。
堪えきれない想像を絶する痛みに俺は崩れ落ちるようにガクンと膝をついた。
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