第一章 壱・世の道は

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 まさか、である。まさかあの老獪な世道未然が、こうして下手に出てお願いを口にするとは。世界とは何が起こるか解ったものじゃないな。 「ジジイ、流石は俺の祖父だ。ロリコンでも無い人間が、幼女に手を出すなんて神をも恐れぬ所業。そこら辺、こんな俺でも分別は着くさ。安心しなって」 『…………もう、儂は何も言わんぞ』 「そうか、そうだよな。幼女好きの道は険しく長い。ジジイの助言も宛にならないだろうしな」 『…………』  どうしてか、ジジイの反応が乏しい。貧しいと言い替えることもできる。  沈黙が続く。  静寂に打開を計るべく、俺は問いの次を促すことにした。 「おい、ジジイ。仕事の話はどこに行ったんだよ。早く話さないと、俺、マジで電話を切るぞ」 『……いや、ちょっと儂自身の至らなさを嘆いておった所じゃ。仕事か、さっきの答えを聞く限り、どうやらお前に与える仕事は最悪の物になるであろうのう』  俺は歩いていた。路地裏を抜けて、デパートの裏にあるフェンスを越えて、お気に入りの場所に向けて歩行していた。  そこは、廃墟。元は病院。今は風化したコンクリートに、鉄骨の骨組みが剥き出す。誰もいない。延び放題の雑草が風に吹かれ、いつもなら数人の不良(時代錯誤の現実逃避者とも言い替えられる)が蔓延っているのだけれど、今夜は誰一人としていなかった。  廃墟全体に怪しい雰囲気が漂っている。立入禁止の貼り紙を無視して、閉ざされたままの門を“飛び越える”と、そこには目を見張るものがあった。 「それってどういう……ーー」  絶句に、静寂。  俺の眼前には、  “怪異”が広がっていた。
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