第一章 壱・世の道は

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 怪異。怪しくて、異なる物。  非常識が常識へと変貌する。表の存在が裏へ逆転するように干渉した結果、“箱庭”とも称されるこの表の世界に、その怪異は“在った”。  裏の魑魅魍魎が表へと反転した。  俺は、呟く。 「なんだ、コレ……」  人間の死体だ。逆さ吊り。皮が無い。全身の皮膚が一つ残らず剥ぎ取られている。血が垂れる。地面に吸い込まれ、雑草に栄養を与えていた。  軽く五人はいた。そこから先は数えなかった。腐敗が進み、見るに耐えない代物ばかりだったからだ。  廃墟の二階の踊り場から、外へと向けて多数の死体が逆さまに吊り下ろされている光景は、異様で威容だった。  圧倒される。萎縮する。  裏の存在である世道紡でも、筋肉剥き出しのまま死んでいる不良の姿は格別で。厳然とした気味悪さの中に佇む俺の口からは、思わず笑みが零れた。 「おいおい、こりゃあ一体何だってんだ?」 『紡、どうした? 聞いとるのか、紡』  鼓膜がジジイの言葉を聞き取るが、今はそんなことに感覚を割くのを良しとしない理由があり、それはこの光景を造り出した怪異に失礼だし、無礼過ぎるという至極単純なモノ。  だから、何も言わずに切った。  電源も切断し、これで外界との連絡手段を断ち切った。静かだ。ただ血の滴る音が木霊し、響き、浸透する。 「やっぱり、な」  そして案の定。  怪異はそれだけでは無かった。 「お前は、一体、何だ?」  誰だ、とは聞かない。訊くまでもない。解る。感知する。こいつは表の人間じゃない。 『妾は、“神落とし”によって堕とされた神。アイヌの精霊であるぞ』
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