第一章 壱・世の道は

11/18

67人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
 『ソレ』は答えた。透き通るような声音が振動して耳に届く。やはり表にいる存在じゃない。これは、紛れもなく、(あくた)よりも溢れて零れて“そこにあるからあるだけ”の存在、怪異。  まさしくそれに相応しい、奇妙さと神々しさと禍々しさを兼ね備えていた。 「コイツらを、こうしたのもお前か?」 『如何にも』 「理由は?」 『ただ、そこにいたから』 「方法は?」 『貴様、わざわざ解っていることを尋ねることほど、相手を馬鹿にする行いはないであるぞ』  どうやら『ソレ』は俺が、世道紡が裏側の人間ではあることを一瞬で看破したようである。  ……いや、ごくごく当たり前か。魑魅魍魎の類いは、同じ匂いのする存在を見逃さない。見棄てることはしても、見逃さない。  見て、逃してくれない。 「で? 神様が、アイヌの精霊が何でこんなところにいやがるんだ? それも全裸で。十八禁は間違いない光景だぞ」 『欲情したか?』 「まさか」  吐き捨てる。 「願わくば、今すぐその身体を叩き潰してやりてぇよ」  『ソレ』の姿を客観的な物言いで語るなら、まさに官能そのものだ。欲情をそそる肉付きに、巨乳だし、美人だし、美しい身体付きだなと世界で絶賛されそうな姿形ではあるけれど、俺には到底美しいモノに見えなかった。  髪は後ろ首で二つに分けられている。色は白銀(しろがね)。眼は蒼い。ここまでの蒼さを認識したのは“身代直(みのしろなお)の眼を見た時以来だな。 『ほう? 貴様、妾のせくしぃーぼでぃーを見ても、欲情せぬと申すか』
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加