第一章 弐・裏語り

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 俺が通っている未塾(みじゅく)学園には“表に暮らす人間が想像することもできないモノ”がたくさんある。  例えばイド。例えば忌能(ソピアー)。例えば下上。例えば《若紫》。そして例えば、身代直だ。  これらは全て、裏側だ。世界の裏。表の裏。仮初めの平和を享受する人間(幸せ者)たちの反対側にある。  “イド”とは、簡単に言い表すなら人間の本能の成れの果て。理性を越えて、超自我(イド)によってだけ行動できる。本能だけが理由。本能だけで何をするか、決めてしまう。  そこに意味などない。  常識も存在し得ない。  そんな、化け物だ。  それに関連する“ソピアー”とは、未塾学園に通う生徒や働いている教師全員が余すことなく摂取させられている薬(これを知る人物は、裏側の住人でも極僅かである)によって、発症するかもしれない忌能の力のことだ。    イドになってしまった人間とは、ソピアーを発症して暴走してしまい、それに肉体や精神が耐えきれなかった者たちの事を指す。  下上については……そうだな、俺から伝えられる事は(ほとん)ど無いだろう。  本音からすれば、口にしたくもない。アイツらの情報なんて糞食らえだし、関わり合いたくもないんだ。  情けない話だが下上と敵対はしたくないと思う。  アイツらは根本的な部分が、どうしようもなく“イカれている”。頭のネジが数本外れて、人間を逸して、“正常”と“常識”をどこかに置き忘れてきたような連中ばかりだ。  それでも、権力(ちから)がある。馬鹿みたいに広い未塾学園を維持し、統括し、支えられるだけの力が奴らにはある。
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