第一章 弐・裏語り

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 学校。小さいけれど一つの世界。一つの社会。その中で“喋らない”と云う選択肢を取り続けるのは、問題として議題に取り上げられる必要も無いぐらい、ハッキリと明確に不可能である。  どんなに友達が居ない人間であっても、不愉快と不機嫌さを撒き散らして煙草を吸いまくる不良でも、意図的に壁を作ってしまう少年少女でも、人間が社会や世界の中に身を置く以上、“喋らない”ことは絶無である。  あり得ない。  それ(すなわ)ち、“死”を意味しているのだから。  人間はどんなに世界や人々を憎んでいても、どこかで他人と折り合いを付ける。一人では生きていけないから。世界に身を置き、社会と交わり、他人と会話することで、ようやく“人間として過ごしていける”のだから。  にも拘らず、身代直は、俺――世道紡が確認する限り、編入してからまだ一度も喋っていない。  これは信じられない結果だけれど、厳粛で粛然とした紛れもない事実なのである。  と。身代直の話題はこれくらいにして置こう。うっかり話しすぎてしまった気がする。彼女は至高の身体付きをしているから、ついつい無意識の内にテンションが昂ってしまうのだ。 「ここは、いつ来ても迷路だな」  俺は、午前の授業をサボって未塾学園南区の“旧図書館”にいた。  調べ物があるんだよな。それも、おそらくは新しく出来た“大図書館”には無いであろう古くて、皆に忘れられたような書物に記載されている“智識”が。 「おや、これはこれは。珍しい客人がいたものだね。そんなところで何をしているのかな、世道紡君」  不意に、背後から声を掛けられた。
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