67人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
振り返ると、やはりと云うか、大人びた容姿を持つ“若紫初姫”が本と本の間に挟まれるようにして立っていた。
少し色素の薄い髪を、後ろで一つに纏めたポニーテール。線の細い目鼻立ちに、まさに白魚のような肌。フレームの細い藍色の眼鏡が、そこはかとなく知的さをアピールしているかのようだ。
久し振りの対面だった。
「珍しい客人だと俺自身も思うよ、初姫」
若紫と呼ばないのは、いや、呼べないのは理由があるのだけれど今は関係ない事柄。詳しく説明する必要性は無いだろう。
「君は、世道家の人間だろう? 先祖代々から伝っている“知識”を持つ君に、これらの本は無価値にも思えるのだがね」
「いやいや、昨夜にちょっとばかりろくでもない事に巻き込まれちまってな。その後始末のために、とある知識が必要になったんだよ」
昨夜、俺は怪異と遭遇した。
アイヌの精霊で、神落としに遭った神様、イムカと名乗った『ソレ』を世道未然と契約を交わすことで保護したのである。
とは言っても、別にとりわけ大したことはしていない。俺の家に連れて、適当にジャージを貸して、床で寝させただけだから。
無論、俺はマイベッドで寝たぜ。どや顔。
「とある知識、か。……ひょっとしてイド関連かな?」
「フロイトのか?」
「違うさ。君なら知っているはずだろう? イドに忌能、そして下上の実験」
最初のコメントを投稿しよう!