第一章 弐・裏語り

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 振り返ると、やはりと云うか、大人びた容姿を持つ“若紫初姫”が本と本の間に挟まれるようにして立っていた。  少し色素の薄い髪を、後ろで一つに纏めたポニーテール。線の細い目鼻立ちに、まさに白魚のような肌。フレームの細い藍色の眼鏡が、そこはかとなく知的さをアピールしているかのようだ。  久し振りの対面だった。 「珍しい客人だと俺自身も思うよ、初姫」  若紫と呼ばないのは、いや、呼べないのは理由があるのだけれど今は関係ない事柄。詳しく説明する必要性は無いだろう。 「君は、世道家の人間だろう? 先祖代々から伝っている“知識”を持つ君に、これらの本は無価値にも思えるのだがね」 「いやいや、昨夜にちょっとばかりろくでもない事に巻き込まれちまってな。その後始末のために、とある知識が必要になったんだよ」  昨夜、俺は怪異と遭遇した。  アイヌの精霊で、神落としに遭った神様、イムカと名乗った『ソレ』を世道未然と契約を交わすことで保護したのである。  とは言っても、別にとりわけ大したことはしていない。俺の家に連れて、適当にジャージを貸して、床で寝させただけだから。  無論、俺はマイベッドで寝たぜ。どや顔。 「とある知識、か。……ひょっとしてイド関連かな?」 「フロイトのか?」 「違うさ。君なら知っているはずだろう? イドに忌能(ソピアー)、そして下上の実験」
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