第一章 弐・裏語り

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 現在進行形の、下上の一部が発案した実験。人間の限界を超えることを目標としたモノを産み出す、俺からしてみたら馬鹿げた事を、下上は立案して実行に移している。  既に何十人、下手したらもっと多くの人間がイドに成り果てたという。  これだから、俺は下上が嫌いなんだ。裏の住人が表の人間を関与させようとする行いを、見逃している世道家現当主も大っ嫌いだ。 「身代直が、今でも“イド狩り”をしているのか?」  身代直は、ソピアーを発症したにも拘わらず、暴走しなかった数少ない“成功体”の一人。常人を遥かに超える身体能力に、とある忌能の力をも得た。それを考慮されて、下上はイドになってしまったモノを殺す役割を、彼女に与えている。  ナイフを得物とした身代直は、正直言って、強い。徒手空拳でも圧倒的に他を圧倒するだろう。しかし、俺が危惧しているのはそこじゃなかったりする。  精神は、大丈夫なのだろうか。 「ああ。ちなみに、直くんは強いよ。肉体的にも精神的にもね。君が心配するほど、直くんは貧弱な存在じゃない。それに今は、“同行者”もいるからね」  初姫は、にへらと笑って俺の懸念を解消した。相も変わらず、人の思考を簡単に読み取る女だな。 「同行者? 新しい成功体か?」 「いや、“成りそこない”の人間だよ。奇妙な男の子だった。興味あるかい?」 「まぁ、多少はな」  成りそこない、か。確かにそれは、イドを探して見つけて殺すにはうってつけの存在だ。
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