第一章 弐・裏語り

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 勘当された身ではあるが、“智謀”の世道家に生まれた俺が一般人と仲良くなってどうするのだ。  表と相容れない存在。真逆に位置し、平行線を辿るのが俺たちの運命。  理解は、している。 「君が逢いたくないと言うのなら無理に勧めないけれどね。取り敢えず、こちら側の話は置いておこう。それで? とある知識とは一体何かな?」 「アイヌ民族と、神落としについてだ」  余計な隠し事は不要だよな。  若紫相手だし、何よりもこの女に手伝ってもらえるかもしれないし。 「神落とし、か。しかし、どうしてそんな知識が必要なんだ? ……ああ、そういえば、さっき何かに巻き込まれたと言っていたね」 「……そういうことだ」  俺が頷くと、若紫はくっくっくと含み笑う。それが一定の大きさを超えると、今度は誰に憚ることなく大声で哄笑した。 「……ふふ、あはははははは!!」  ここ、仮にも図書館なのにな。  いいのかよ。  そんなに笑い声を響かせても。  尤も、この旧図書館にいるのは俺と若紫初姫だけなのだけれど。 「なるほど。福井莉里くんはイドと出会い、世道紡くんは神様と出遭ったのか。あははは、これはまた、おかしな組み合わせもあったものだな」  一頻り笑った後、若紫は目頭に溜まった涙を指先で拭い、 「君は、その神様を助ける気なのかな?」 「いや、“戻す”だけさ。助けるなんて、そんなの、表の人間がすることだろう?」
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