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「それでな、初姫。お前は、アイヌの神落としについて、何か知らないか?」
「知識の塊であるような君が知らないことを私が知っているはず無いだろう?」
いや、お前だって十二分に色々な事を知っていると思うのだけど。控えめに評価しても、一般人を超える知識は優に備わっているだろうしな。
「じゃあ、神様について詳しいことが書かれた書物を知らないか? 探してんだよ、それを今」
「神を、戻すために?」
「戻すために」
若紫の確認に、俺は即答する。
一体全体、それ以外に俺の為すべきがあるのか? 戻せるなら戻す。回帰させる。契約もしたし、いつまでもあの神様が家にいれば、俺の精神状態が堕ちるところまで堕ちてしまう。
「……そうか。戻すために必要な事が書かれた書物は、確か、ここら辺に有ったはずだよ」
若紫が背伸びをして本棚から取り出した古びた書物。黒一色の表紙は色落ちして、もはや灰色に近い。タイトルも読めないほどに傷んでいる。
これは、ちょっと、想像以上だな。
いつ頃書かれた本なんだ? 痛みすぎだろ。分厚いし、重い。作者も大変だったろうな。
なんて場違いな同情を抱きつつ、俺はこれを渡してくれた若紫にお礼を述べた。
「助かったよ、初姫」
「ふふふ、お役に立てて光栄だよ。私は部室に戻るが、来るかね? 一応、おもてなしさせて貰うよ」
「光栄な話だが、慎んで辞退させて貰おう。やっぱり俺たちは、境界線を敷いた立場の上で、それでもお互いがお互いの存在に得てして触れあわない程度に関わり合うべきだ」
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