第一章 弐・裏語り

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 台詞がやけに大きく聞こえるのは幻覚などではないことを、俺は、超至近距離にいるパンドラ禍面を視認することで確信した。  近い。ちかい。チカイ。  肉薄されてやっと反応できた。パンドラ禍面は、十数メートルあった距離をまさに一瞬で無にして、俺の間合いに躍り込んで、当たり前だけど攻撃を放ってきた。  蹴り。ただの前蹴り。  だが、その重みは尋常じゃなかった。  常識を超えた破壊力に、俺は身体をくの字に曲げて蹴り飛ばされ、ブロック塀を粉々に粉砕しただけでは飽き足らず、電柱を二本薙ぎ倒して、漸く止まった。 「――――!」  悶絶。息が出来ない。肺を強打してしまった。苦しい。辛苦。空気全てを体外に吐き出した感覚だ。  それでも、そんなもの、“俺には通じない”。 『さすがさすが。戦闘の《若紫》、その分家の人間だね。今の蹴り、常人なら普通に呆気なく粉々でバラバラで死んでるよ?』  直ぐさま立ち上がった俺に、パンドラ禍面は拍手をした。それがどんな意味を持つのか、表情を把握できない以上、俺には解らないけれど。 「……あんまり、智謀とは関係無いことはしたくないんだけどな」 『キャハハハハ、そうだよね? そりゃそうだよ、人間みんな、得意な事で勝負したいよね? でもさ、世界って言うのはそんなに優しいものじゃないんだよ?』
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