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「そんなこと……」
言われずとも、生まれ落ちた頃から俺は理解している。今さら、赤を赤で塗り潰したような真っ赤な他人に諭されなくても、十二分に“識”っている。
『ホント、ボクも嫌なんだよねー。だってさ、ボクは善悪をぶっ壊すのが役割なんだよ? 自らを善とか悪とか、そんなふざけた思想を持つ愚者をグッチャグチャに叩きのめす存在なんだよ? けれど、君は善悪の垣根を越えて、ただ渇望しているだけなんだから、ボクが抹殺すべき対象に含まれていない訳なんだよね』
「渇望、ね。お前みたいな変人野郎に、俺の何がわかるんだっつーの」
鞄を片手に掴みながら、俺はパンドラ禍面を見詰める。凝視する。付け加えるなら、これは恋愛云々では無いのでそこはご理解願いたい。
『表ってさ、良いよね』
「は?」
『表があるなら裏もある。なら逆に、裏があるなら表もある。これってさ、真理だよね?』
「……片腕を鋼の義肢に変えてやろうか?」
『ロケットパンチって、男の夢だもんね。でも、今は良いや。この腕も中々どうして気に入ってるしさ』
それにしても、と。
パンドラ禍面は話を戻した。
『真理は残酷だよ、世道紡。裏があるなら表もある。そんなの、表側の人間が口にした、ただの出任せ、嘘八百、人間の口に真無しってね。まぁ、要するに――』
『裏の裏は、裏ってことさ』
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