第一章 零・本能連鎖

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 次は孤城匠の番。父の眼が此方を向く。その途端、重々しい言葉が紡がれた。 「離れていろ」  どこか女の子のような声。その直後。ナイフが飛来して、父の笑い声が響いて、黒髪を靡かせた少女が間に割って入って来て。  そこで孤城匠は逃げ出した。  一心不乱に。何も考えず。そうしたら、家から約三キロも離れているマンションの屋上にいた。  このマンションは四階建て。下が見える。ネオンに彩られ、車の排気ガスで汚れ、人が道路を埋め尽くしている。  孤城匠はこう思った。  汚いなーー。  醜いなーー。  穢いなーー。  自分もあんなに、汚くて醜いモノなのだろうか? 父のように“本能”だけで、かつて愛し合った仲の母を殺してしまうぐらいに。  そして、孤城匠はそんな人間の血を引き継いでいるとしたらーー。  ゾッとした。  吐き気がした。  この身体が、脳が、眼が、鼻が、耳が、喉が、腕が、手が、指が、足が、胸が、太股が、足先が、内蔵が、血管が、細胞が、とにかく全てが汚くて醜くて穢らわしいモノに思えた。  だから。 「これも、ぼくの本能(思い)だよ」  マンションから身を投げることに一切の躊躇は無かった。  肯定された自殺だった。  結局、 「やはり、イドになったか……」  孤城匠を“終わらせた”のは、先ほど彼の父親を狩った少女のような討伐者だったけれど。
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