67人が本棚に入れています
本棚に追加
次は孤城匠の番。父の眼が此方を向く。その途端、重々しい言葉が紡がれた。
「離れていろ」
どこか女の子のような声。その直後。ナイフが飛来して、父の笑い声が響いて、黒髪を靡かせた少女が間に割って入って来て。
そこで孤城匠は逃げ出した。
一心不乱に。何も考えず。そうしたら、家から約三キロも離れているマンションの屋上にいた。
このマンションは四階建て。下が見える。ネオンに彩られ、車の排気ガスで汚れ、人が道路を埋め尽くしている。
孤城匠はこう思った。
汚いなーー。
醜いなーー。
穢いなーー。
自分もあんなに、汚くて醜いモノなのだろうか? 父のように“本能”だけで、かつて愛し合った仲の母を殺してしまうぐらいに。
そして、孤城匠はそんな人間の血を引き継いでいるとしたらーー。
ゾッとした。
吐き気がした。
この身体が、脳が、眼が、鼻が、耳が、喉が、腕が、手が、指が、足が、胸が、太股が、足先が、内蔵が、血管が、細胞が、とにかく全てが汚くて醜くて穢らわしいモノに思えた。
だから。
「これも、ぼくの本能だよ」
マンションから身を投げることに一切の躊躇は無かった。
肯定された自殺だった。
結局、
「やはり、イドになったか……」
孤城匠を“終わらせた”のは、先ほど彼の父親を狩った少女のような討伐者だったけれど。
最初のコメントを投稿しよう!