第一章 参・存在形成

2/16

67人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
 何でこんなことになってしまったのだろうかと、俺は、いつになく熱く火照った身体を冷ますために体躯を停止させつつ、壁際から『敵』を窺うようにソッと覗かせたのだけれど。 『やる気あんの!?』  絶叫染みた大声と共に繰り出された踵落とし。ひょっとこのお面を着けた自称『パンドラ禍面』の、柔らかい四肢と常人を遥かに超越した身体能力を最大限に駆使して放たれた踵落としは、空手家や武術家が使うそれと同等とは至極到底思えない威力だった。  人間の身体など木っ端微塵になる絶烈な踵落としだが、俺こと世道紡とて表の存在じゃない。裏側だ。  だからこそ、ギリギリのタイミングで避けられた。壁が粉砕され、道路が陥没。コンクリートの破片が四方八方に舞った。  くそッ、この変態野郎ッ。  手加減なんて、微塵も考えてねぇな。  ……事後処理するのは俺なんだぞ。 『キャハハハハ、避けてばかりでいいのかなッ!? ほらほら、サッカーや野球が点を取らないと勝てないように、喧嘩だって攻撃しないと勝てないよ!?』  連続の拳打を華麗とは言えない足取りで回避した俺は、取り敢えず一定の間合いを開けた。俺たちみたいな忌能者には、有って無いような物だが、一度仕切り直すには十分な距離だ。 「うるせェんだよ、この変態。俺を殺したいなら、忌能を使えば良いだろうが」 『あれあれあれ? ひょっとして、世道紡ってば勘違いしてない? 君を殺すつもりなんて、主人公の登場しない物語ほどあり得ないんだけどね』
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加