第一章 肆・背反思考

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 針の(むしろ)とはきっとこの事を言うんだろうな、と俺が肩身の狭い思いをしていると、憤怒の表情を端麗で美麗で華麗な顔に張り付けた妹が、平然と欠伸する“怪異”に向かって言い切った。 「神に戻ろうなんて、そんなの兄貴に頼らず自分で何とかしてください」  至極当然なことに拘わらず、 『む・り・じ・ゃ・な』  俺のジャージを着ている馬鹿は、常識を知らないのか膝を立てて座り、眼を擦りながら、解の神経を逆撫でするように一単語ずつゆっくりと口にした。  嘲りが孕んだ声音だ。  折り畳み式丸テーブルには三つのコップがある。当然、家主の俺が用意したものだが、誰も手をつけていない。  にらみ合う解とイムカに挟まれて、俺はパンドラ禍面について考えたくても思考が追い付かない環境に晒されているわけで。  つまり、最も望んでいることはだな――。  誰か、俺を助けてくれ!  ここは空気が重すぎる……っ!  友達のいない分際で、無意味に頼る世道紡の情けなさに触れることもなく、イムカは頬を人差し指で掻きながら、 『神落としというのは妾一人でどうにかできる範囲を超えとる。何しろ“堕ちた”のだから、“昇る”ことは相当難しいんじゃよ、小娘』 「そもそも何で兄貴に? 他の人間でも構わないはずですが」 『さぁ。コヤツが妾のせくしぃぼでぃーに誘惑されたんじゃろうな』 「んなわけねぇだろッ!」  好き勝手変なことを言うイムカに怒鳴る。あり得ねぇよ、あんな駄肉まみれの奴に誘惑されるなんて。  解も頷いて、 「そうです。兄貴は私にゾッコンの変態ですから。貴女みたいな年増に興味ないんですよ」
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