第一章 壱・世の道は

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ーーーーーー  春になった。  寒空残る春の夜だった。  昨夜から続く胸糞悪い気分は、二十四時間経った今でも、一向に改善される気配を見せなかった。  俺は黒のコートに身を包み、未塾市の通りを散策する。意味は無い、意図も無い。ただの散歩である。  急いでいる奴がいれば時間をくれと言うだろうな。そんな暇人の俺は、今日もゆっくりと歩く。歩く。歩く。  自転車に乗る人間の気が知れない。俺は断然、“歩き派”だ。そんな流派があるかどうかも知らないけれど。  にしても。まだ高校三年生の俺がどうしてこう暇をもて余しているのかと言うと、理由は至極単純だった。  今まで、人生の殆どを費やしてきた『モノ』が無くなってしまったからだ。  一切合切、きれいさっぱり消え去った。  だからこそ、暇だし、何もすることが無い。友達も居ないし、携帯電話のアドレス帳には何も記載されていなかったりする。  寂しくない……と言えば虚偽になるけれど、別段無理して“友達紛い”のものを作る必要はないだろう。  べ、別に作れなくて嘆いている訳じゃないんだからね! か、勘違いしないでよね!!  なーんて、馬鹿みたいにツンデレっぽくしてみたけれど、気持ち悪いだけだな。特に男がしたら。うえってなる。吐き気がする。
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