第一章 壱・世の道は

4/18

67人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
 と、歩きながら一人漫才みたいことを心の中でしている(もしテレパシー受信者がいれば、俺って相当イタイ人間だよな?)と、一応持ち歩いていた携帯電話が唐突に鳴った。  表示された番号は、固定電話。  この携帯電話の番号を知っている人間は一人しかいない。誰からだと疑問に思う事も、出ようかどうか迷う必要もないのだから、  案外、便利じゃね? 「はい、もしもし」  通話ボタンを押し、お決まりの挨拶を口にすると、電話口から(しわが)れた声が返ってきた。 『おー、(つむぐ)か? 久しいのう。ちゃんと元気にやっとるか?』 「これはこれは“元”当主様。何かご用ですか?」 『やけに、元、を強調するのう。我が倅に、お前の父に当主を継がせたことをそんなに怒っておるのか?」 「当たり前だね。何であんな糞野郎が当主になってんだよ。次期当主は明らかに俺だったろうが」  大きくなりそうな声をギリギリで押し留める。  家族間の口論を他人に聞かれたくなかった。その程度の人間味溢れる心情は、まだ俺の心にも残っていたらしい。  俺は心中で己を嘲笑い、蔑んだ。  おいおい、世道紡。  まだお前は、人間でいるつもりなのかよ。  ……もうお前は、ニンゲンで化け物で裏側の生き物だろうが。 『そうは言ってものう。“戦闘”の“若紫(わかむら)”、その分家である“智謀”の“世道”は完全世襲制じゃぞ。儂からお前に当主交代しとったら、家系の中から反発する奴等が大規模な暴動を起こしたじゃろうて』
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加