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「それをどうにかして当主を俺に譲れてこそ、“智謀”の名を冠する家系の当主だったんじゃねぇの?」
『ふむ……。そう言われると、そうかもしれんがのう』
元当主がむむーと唸った。キモい。そういうのは可愛い女子がしてこそ意味がある。
皺だらけの齢七十後半のお爺さんがしても、眼の毒になるだけだっつーの。
電話の場合は耳の毒、だけれど。
「そんで? 今日、俺に電話を掛けてきた理由は何だよ。ただ単に、孫の無事を確認するためじゃねぇんだろ?」
『まぁのう。では、一つ目じゃ』
「何だよ、一つじゃねぇのかよ。電話切ってもいいか?』
『少しは忍耐強さを持て、紡。簡単な問いを一つと、お前に対する儂からのお仕事を頼みたいのじゃ』
「問いかけと、仕事ねぇ」
携帯を耳に当てながら、俺は最近完成した歩道橋の通路から、車が我先にと走っていく道路を見下ろした。
「問いかけの方が先だろ?」
『ほう、解るか?』
「世道未然。アンタは、無駄な問い掛けをしないからな。先祖から受け継いできた膨大な知識を糧にすれば、問いかけなんて存在、無用だからだ。そんなアンタが問い掛けると宣言した。きっとそれは、その後に控える仕事と関係があるんだろ? 元気にやっとるかという質問も、親父が当主になったことを怒っているのかという問い掛けも、全てその仕事に行き着くんだろ?」
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