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「あのマスターに魔術使っていたみたいですが、一体何を?」
「ああ、あれはちょっとあの四人を誘導させるためにな」
森を歩きながらクリスは話し続ける。
「ユキムラさんとこに行ってもらった」
「ユキムラさんの元へ…一体どうしてですか?」
「あの四人に強くなってもらいたくてな、ユキムラさんが師匠を決めるらしいわ、まああたしの予想やとソウマっちはタマモさ……」
「いきなり固まってどうし……」
二人は会話の途中で固まった。
「ようやく見つけましたよ、クリス」
二人の眼前には、女性がいた。
深い紺色の着物を着た白い肌の美女。
しかしその頭にはキツネのような黄色い耳、体には尻尾があり、その尻尾がゆっくりと揺れている。
腰あたりに普通のものより少し細く見える刀が差してある。
「言いましたよね? 数日前からサイラインに行くと」
「え、えっとタマモさん…」
「私は言ったんですよ! 三日前から」
「ナユタ、言い訳はいりません」
「ヒイッ!」
ナユタはタマモのその平坦な声にひどくおびえる。
「クリスは昔から人の言うことを殆ど聞いていないから気をつけなさいと、この台詞は五百回目から数えるのを止めました」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
土下座をしてひたすら謝り続けるナユタを見て、クリスに向き直る。
「そしてあなたも、人の言うことを聞きなさいなんて子供しか言われません。あなたは何歳ですか?」
「百飛んで六です」
「人間ならもう死んでしまう歳ですね、私達でも十分成人です」
タマモの説教を受けながら、クリスは本当に少しづつ指を動かす。
「(速唱陣で速攻で転移すれば逃げ切れる!)」
「転移しても、どうせサイラインで会いますよね? もしかしたらその時にクリスを細切れにしてしまうかもしれませんね」
見るもの全てを魅力しそうな微笑みをタマモは浮かべ、そして無表情にする。
「では、戻りましょうか、冷たい床があなた達を待ちわびていますよ?」
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