《序章》俺の日常を返して下さい

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  「「あ」」  互いに短く声をあげ、彼と彼女は立ち止まった。  ばったり。  まさにそんな感じでの遭遇。  出会ったふたりの一方は、どこをどうとっても平々凡々な10代後半の少年。 「せ…」  せんぱい、という単語の形に、彼の口が動こうと薄く開く。  だがそれよりも、彼女が言葉を紡いだ方が早かった。  全く迷いも躊躇いもない口調で、 「静岡」  と。 「……藤沢です」  彼――藤沢京矢は、しばしの沈黙の後彼女の発言を否定した。 「似たようなモノでしょ」  しかし彼女は、薄い色の髪を軽やかに揺らして、さっくりと京矢の抗議を無視する。 「似てませんよ…」  そりゃ確かに静岡も藤沢も地名ですけど、普通は間違えません。  京矢が引き続き抗議をすれば、彼女は小さく鼻を鳴らす。 「うるさい。男はそんな細かいこと気にしないの」  ここで「全然細かくない」、と思う京矢は、おかしいのだろうか。  ……だが、ここで彼女の発言にツッコミを入れようものならどうなるか、京矢はよく知っている。 よぉぉぉっく、知っている。  
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