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ここ数日、私の後ろから迫ってくる足音の正体が掴めたのは一寸前のことであった。
今まで私は数多くの希望を言葉にして他人に伝えてきたが、どうやらそいつらが私を捕まえようとしているらしい。
このように冷静な風を装ってこそいるが、現在。私の足は絶えずどこかを目指して歩みつづけている。
「『おこさまリアルキッチン・ホットケーキセット』はありますか?」
何軒も玩具屋を梯子して、私の口が動く。
『おこさまリアルキッチン・ホットケーキセット』と何度も繰り返す内に思い出したのだ。
その玩具は私が四つの頃に欲しがったものであると。
しかし、私も数年前に二十歳をこえた。そんな女が『おこさまリアルキッチン・ホットケーキセット』などという十五年近く前の玩具を探している。
怪訝な顔をする店員を相手にして古い玩具の名を繰り返す。自分の意思とは関係ない(より正しく言うならば今の自分)とはいえ、そんな行いに羞恥心を覚えずにはいられなかった。
玩具屋の梯子も数百をこえた頃、鄙びた商店街の片隅にあって置物のような老婆が経営する店で、私はようやくその玩具を手に入れた。
目的は果たしただろう、ああ疲れた。
私はそう思いその場に座り込もうとしたが、足は再び勝手な動きを見せた。
玩具は不燃物置場に叩き込まれた。
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