言葉

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 二人を電気コードで拘束し署名と印鑑を捺させた私は、おじさんを解放して離婚届を役所に出すよう命じた。  おばさんは床に転がしたまま。  婚姻届を受理してもらえるようになり次第、すぐに出すことと指示した後、私は再び外へ出た。  なんと恐ろしい。  ついに私の言葉が他人を傷付けはじめた。 「もう嫌だ、これ以上他人を巻き込まないで」  その言葉は私を追ってこない。  次は何が起こるのか。  必死に思い出す、過去に口にした言葉を。  その後、私はゲーム屋でソフトを買った。持っていなかったハードを買った。中学生の頃欲しかった携帯電話を買った。  その内に気付いた法則は、叶えられた望みは私を動かさないということだ。  おそらく、役目を果たせなかった言葉だけが、その言霊だけが私を動かすのだろう。  この不可思議な現象は、私が言葉にした叶わない望みが尽きるまで続く。  中学の頃に欲しがった物は大体買ったはずだ。  次は高校の頃、私が抱いた叶わぬ望みを思い出そうとした。  金物屋に入っていく私に、私は恐ろしいことを思い出してしまった。  私が高校生だったあの日。  虐めに遭っていた。  そして何度も、私を虐めるあの女達を殺したいと枕に向かって叫んだことを。  手にかかる包丁の重さが、その予想に裏付けを与えていた。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加