Episode0

2/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 日常は音もなく僕らのすぐ傍を流れ、気がついた時には過去となり忘却に消える。  数年前に突如現れた能力者と、彼らのもたらした新しい技術は世の中に目覚ましい革新を生み出し、新たな時代の訪れを招いた。  勿論、招き入れたのは希望だけではない。新しい技術・“高駆動粒子歯車”――通称、『ドライブギア』は今となっては欠かせぬエネルギー源としてありとあらゆる物に使われている。しかし政府の人間がこれらに与えたのは、革新的な能力を秘めたエネルギーとしての役割だけではなかったのだ。  今の世の中は窮屈すぎる管理社会だ、とこの前偉い人が批判していた。その人はもう最近ではテレビでも見ないし、町中で遭遇することもない。彼の著書も古本屋ですら見かけられないほど古くなった。けれど、彼の言葉は僕の中で常に最新のものとして生き続けている。 ――今の世の中は窮屈すぎる管理社会だ  この世界の中で、僕は何のために存在しているのだろうか。最近はそのことばかり夢に見る。 「……そろそろ行くか」  使い慣れた携帯の電源を切り、雑音一つしない河原の道を上った。ここは珍しく人の手がかかっていない、いわば無人区。何年か前に未曾有の人災が起こってから、ずっと立ち入り禁止になっていた区域だ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!