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第一章
早朝の駅に、人の姿は疎らだった。
辺りはまだ暗く、空には鎌のような細い三日月が浮かんでいた。
雲がゆっくりと動いて、時々月を隠す。
電車を待つ人々の顔には一様に眠そうな表情が浮かんでいる。
ベンチに座っている中年の男性は完全に眠り込んでしまっている様子で、上半身がゆらゆらと不規則に揺れていた。
自動販売機の前をうろうろと歩き廻る若い男性は、何度も大きな口を開けて欠伸をしていた。
時計を見ると、もうすぐ五時半になろうとするところだった。
僕が乗る電車が到着するまで、あと五分程度だ。
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