第一章

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その日は朝から会社中が慌しかった。 定期異動の発表の日だからだ。 出世を目指す人間たちは、本社のより上のポストを目指し、本社から出されることを恐れた。 下っ端達は、自分がどこに配属されるのか、不安を抱えていた。 場合によっては単身赴任ということだってある。 そうなれば、家計に大きな負担をかけることは間違いない。 会社は決して経営状態が良いわけではなかったから、単身赴任したからといって、特別な手当てが付くわけでも何でもなかった。 僕も、その点については、不安を抱えずにはいられなかった。 僕の場合は金銭的な不安よりも、家族と離れ離れになって、自分自身がまともでいられるかどうかという方が不安だった。
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