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ビールを飲んで一息つくと、僕は一気に不安な気持ちに襲われた。
どうして杏がこんな場所に僕を連れてきたのかはわからないが、僕が妻ではない女性とラブホテルにいるという事実は、確実に僕の目の前にあった。
ここは男と女がセックスをする場所であるということは、誰もが知っていることだ。
僕がここに妻以外の女性と一緒に居ることは、世間的に見て、決して正しいことではないだろう。
だけど僕は今、間違いなく妻ではない女とラブホテルにいるのだ。
それは事実だ。
どんなに目を反らしても、その事実は消えてなくなったりすることはない。
そして、その事実は僕に、妻に対する罪悪感を抱かせ、これから起こるであろう様々な出来事に対する不安を抱かせた。
僕の体は勝手に震えだし、心臓が脈を打つ音が頭の中でひどくこだました。
杏がシャワーから出てくる前に、金だけ置いて、ここから立ち去ってしまおうと思った。
今のうちならば、まだ、何もなかったことにすることができる。
ここに彼女と一緒に来たという事実はなくせないとしても、これから起こるであろうことについては、無いものにすることができる。
僕は財布を取り出して、中身を確認し、一万円札を取り出して、枕元に置こうとした。
その時、シャワールームの中から杏が姿を現した。
杏は白いバスローブに身を包み、濡れた髪をタオルで拭いていた。
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