第八章

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「起きたの?」 杏が言った。 「ああ」と僕は答えた。 「大変だったのよ。あなた、タクシーが停まっても起きてくれなくて。何度も揺すったけれど起きてくれないから、何とかタクシーから引っ張り出してここまで連れてきたんだけど」 杏は言いながら僕の方に向かってゆっくり歩いてきて、僕の隣に腰を下ろした。 「そのことについては悪いと思うよ。だけど、どうして僕をこんなところに連れ込んだんだい?」 僕の問いに、杏は答えなかった。 代わりに、黙って立ち上がり、冷蔵庫の前に行くと、扉を開けて中を覗き込んだ。 「私も何か飲むわね」 「構わないよ」 僕は答えた。
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