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「どうしたの?」
僕が訊くと、杏は小さく頷いてから言った。
「一応ここはラブホテルだし、もしもあなたがセックスをしたくなったら、その時は正直に言って欲しいの。そもそも、黙ってこんなところに連れてきた私が悪いんだし。あなたがセックスをしたくなったとしても、私にはそれを責めることなんてできないわ。だけどね、私は無理やり犯されちゃうようなのは好きじゃないの。だからお願い、セックスをしたくなったら、正直にそう言って欲しいの。その時は、決して拒んだりしないから」
「わかったよ」
僕は言った。
だけど、僕にはわかっていた。
僕は決して杏とセックスをしたくなったりはしない。
僕と彼女の間には決してそんな感情は芽生えたりしない。
どこにも根拠なんてないけれど、僕にはそのことがはっきりとわかっていた。
そして、おそらくそのことは杏も同じようにわかっているはずだ。
だからこそ彼女は僕をラブホテルに連れてきたのだろうし、無防備な格好で僕の前に居るのだろう。
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