第八章

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煙の匂いを嗅いでいるうちに、僕もタバコを吸いたくなってしまった。 僕はベッドから抜け出して、クローゼットの中にかけておいたスーツのポケットからタバコの箱を取り出して中を覗いた。 だけど、中には一本のタバコも入っていなかった。 僕はタバコの箱を両手で捻り潰してゴミ箱に捨てた。 その様子を見ていた杏は、座ったまま僕の方にタバコの箱を差し出す。 僕は普段、メンソールのタバコを吸うことはない。 だけど、今はひどくタバコが吸いたかった。 手持ちのタバコが無いという事実が、僕をより吸煙の欲求に導いているのかもしれない。 今は煙が吸えれば、メンソールでも何でも構わないという気分だ。 僕は杏に近寄り、素直に杏の差し出す箱の中からタバコを一本抜き出して咥えた。 僕がタバコを咥えると、すぐに杏がマッチを擦ってくれたので、僕はそれで火を点けた。
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