第八章

16/37
前へ
/217ページ
次へ
「だけどね、私はそのとき考えたの。きっと私より成績の良かった人たちは私よりもずっと勉強ばかりしているんだって。きっと、寝る間も惜しんで、多分一日に二時間かそこらくらいしか眠らないで勉強しているんだろうって。友達も作らず、勉強以外の何にもしていないんだろう、もしかしたら食事をしている最中にも勉強をしているのかもしれないって、そう考えたの」 「少なくとも、僕はこれまでにそんな人間を見たことが無い」 「その通りよ。それは間違っていない。そんな人間なんていなかった」 杏は小さくため息をついた。 そして、ゆっくりと僕の方に体を向ける。 僕の顔のすぐ横に、杏の顔があった。 杏の吐く息が、僕の頬をかすめて通り過ぎていった。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

340人が本棚に入れています
本棚に追加