第八章

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「そうよ。私は高校生の間、一度も成績トップの彼女に勝つことができなかったことによって、ひどく傷ついていた。たぶん、自分で思っていたよりもずっと。もしも彼女が私と同じように勉強ばかりしていて友達も恋人もいなくて、ピアノも習字もバレエも習っていなかったのなら、私はそんなに傷つかずにすんだのかもしれない。だけど、彼女は現実に多くの友達がいたし、恋人がいたし、ピアノも習字もバレエも習っていた。私よりもずっと勉強に割く時間が少なかったにも関わらず、私よりも良い成績をおさめ続けた。そうして私の唯一の支えだったものを、少しずつ削り取っていったのよ」 「そして、彼女は東大に行った」 「そのとおり。そして、私は東大に行けなかった。彼女は偶然にも弁護士を目指していたの。だから私は、彼女よりも先に弁護士になろうと思ったの。それが、新たに私に与えられた目標だった。私自身が望んでいたものであろうと、そうでないものであろうと」 「じゃあ、大学でも相変わらず勉強三昧だったの?」 杏は静かに頷いた。
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