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「今回はワープロを使わなかったのかい?」
僕は訊いた。
「どうしても、手で書いてみたかったのよ」
「どうして?」
「わからないわ。ただ、そのほうが良いような気がしただけ」
僕は彼女が書いた小説に目を通した。
今までの小説に比べると、ずっと文章が整っていた。
だけど、それだけではなかった。
そこには、確かに一つの世界が出来上がっていた。
彼女の紡いだ物語の中の人間は溢れんばかりの生命を与えられていたし、情景にも十分すぎるくらいの色彩が与えられていた。
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