第五章

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第五章

僕はベンチに座って、杏がしてくれた話について考えた。 彼女の小学生の頃の境遇は、僕のそれとはまるで違っている。 僕は、小学生の頃は勉強なんてろくにしたことが無かったし、友達だって多かった。 少なくとも、修学旅行で一緒に行動する人間がいないなどということはなかった。 だから、正直に言うと、僕は杏の境遇や、その時の気持ちが上手く理解できなかった。 それは、僕にとってはただの悲劇のドラマのようにしか思えない。 人の涙を誘うような、作り話のようにしか感じることができないのだ。 あるいは、すべて杏の作り話だったのかもしれない。 ろくに話をしない僕に対して、適当に話をしただけなのかもしれない。 だけど、僕はその話の続きが気になって仕方が無かった。 彼女がその後、どのような中学校生活を送り、高校生活を送り、現在に至るのか。 あるいは、彼女の話が全て事実だったとして、弁護士を目指そうとしていた彼女が、どうしてこんな小さな町のキャバクラで働いているのか。 杏の話が事実であろうが、虚構の話であろうが、少なくとも僕にはその物語の結末を思い描くことは出来なかった。 そして、それを知りたいという衝動は、僕の中で確実に大きくなっていた。
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