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「ただいま」
都会から離れた、無駄に大きい家。
祖父が持っていた山の一部を売った金で建てられた家だ。
────誰も……いないのか?
しかし、それもぼくからすればかなり昔の話である。今では片田舎な家の一つとして変哲もなく位置している。家は残った山のなるべく平らなところで建てられてはいるが、すぐ後ろに構える山ではイノシシが出たりするらしい。
そういうことになっている。
だから、山の周囲には厳重にフェンスを作って、家族以外誰も入れないようになっている。
風呂場から水の音が聞こえる。
「花音、いい加減にしとけよ」
リビングに行くためにチラッと風呂場を覗くと、ぼくの4つ下の妹であるところの花音がお気に入りの『ヨウ君』と呼ばれる母親お手製のお人形を浴槽にはった水に出し入れを繰り返していた。
困った習慣がついてしまったものだ。『ヨウ君』人形が実はぼくの名前であることは懸案すべきことなのだが、もういくら注意してもやめないので諦観している。
花音はもう当分ヤってないんじゃないかな。最近だと、3ヶ月前とかか。とすれば、あの行動はその衝動か。
「おかえり。よう君」
リビングの一番でかいソファーに王様のように鎮座するのが、この家の長男『俊幸』兄さん。家族でさえ一目置くような男前なのに対し、性格がこれでもかと思うくらいに非道い。ひねくれているとかではなく、もう根っこから腐っている感じだ。しかし、それも兄さんの個性であるし、それが兄さんを助けるに買っている。この家ではある意味一番兄さんが働きものだ。
3日前、といったところか。
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