荒廃病院と幽霊

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「おかえり、よう君。晩御飯できてるわよ」 そしてこれが、ぼく、花音、俊幸兄さんの生みの母親である。 「ごめん。今日は外で食べてきたんだ」 「あっ、そうなの」  ぼくは母さんのご飯というのを食べたことがない。故に母親の味というのを知らない。一度、父さんが実演として食べてみせてくれたが、吐血して半年間入院した。そういう結果を招いた。  だから、他にも「後で食べるよ」とか、「友達の家でご馳走になったんだ」と取り繕って、その場をしのぐことにしている。  そして母さんが寝静まった後で、買ってきたカップ麺やらを食べることに慣れてしまった。  2ヶ月前と踏んでいる。  「今日殺ったのか?」  俊幸兄さんは勘が鋭い。加えて勉強もできるし、頭も良い。自分でさえ意識せずに行動していても、いつもと変わったところがあれば難なく指摘してくる。 「ま、まぁね」 「前に僕が譲った女か?」 「うん。まぁ」  「そうか」と納得したように頷く兄さん。  良くやるよ。1ヶ月前、自らが通う大学の一番仲の良かった女性をぼくに勧めてきた。ぼくとしては、兄さんを介さなければ接点がないので、ターゲットとしては支障がない。むしろ好都合な獲物だ。  そして、後日行われる葬儀で兄さんは泣き喚き騒ぎ散らすのだ。そういう点で、兄さんは性格が破綻している。 「今日は疲れたからもう寝るよ」 「そうか。おやすみ」  本当に疲れていた。何日間徹夜したのか覚えていない。明日も学校がある。早く寝よう。
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