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「おい」
「いま忙しいです」
また今日もホウキを持って掃除。
もう一週間続いてる。
高度成長期が過ぎてからすっかり神社には人が来なくなった。その時から僕はひとりだったから、一週間毎日人と顔を合わせるなんて久しぶりにも程がある。
この男の子は中学1年生らしい。
まぁよく分からないけど、13歳ね。
僕も見た目はそのくらいかな。
この男の子がそう言ってたから。
「ねぇ、名前は?」
僕は石段に腰かけて、ホウキを持つ男の子に訊ねた。
男の子は顔だけこちらに向けて僕を睨んだ。でも目が丸いから全然怖くない。
「御厨だって…前にも」
ぽつりとそれだけ言ってまた手を動かし始めた。もうゴミなんて無いのに。
‘みくりや’
やっぱり神道関係のやつか。
いきなりやってきていきなりホウキを倉庫から取り出して掃除をし出した。
普通のやつじゃしないよ。
僕は深いため息を吐き出した。
足元にあった葉をつかみ、それを見つめながら御厨にまた訊ねた。
「そうじゃなくて、下の名前」
御厨は手をとめ、倉庫に向かい、ホウキとちりとりを片した。
そして丸い大きい目を見せびらかすかのように僕を見て、言った。
「乙哉、です。」
おとや…??
それがいまの名前なんだ。
短くて覚えやすい。
僕は石段から腰を上げた。
葉は空へ飛ばした。
乙哉は少し笑った。
その目は僕の頭上を見ている。
小さな声で低いと呟いた。
…背のことだろう。
そんなことは無視して僕は乙哉に言った。
「僕は名前をなくした。」
乙哉は驚いた表情をし、境内に音が消えた。
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