1345人が本棚に入れています
本棚に追加
/514ページ
黒髪の少年は腰に携えた鞘から長剣を抜き払った。
銀色の刀身に炎を灯し、少年はゆっくりと目を閉じる。
草木の栄える崖の上に風が流れる。
背後の木々が風で揺れ、それぞれ音を鳴らす。
少年の所々赤の混ざった黒髪も風に煽られ乱れた。
少年はまたゆっくりと瞳を開け、長剣に灯った炎は黒炎へと姿を変える。
目前に広がる雄大な自然に動物は見えない。
黒炎は空気でさえも焼き、全てを無へと返す。
それは熟練の鍛冶屋の打った鋼でさえもだ。
黒髪の少年はその黒炎を消すと、柄と鍔を崖下に落とした。
少年は再び目を閉じる。
右手をゆっくりと上げ、手のひらを開いた。
瞬間、黒いオーラが右手に集約し、朧気ながらも濃い部分が力の本体を映し出す。
それはざっと少年の等身大はある。
その時、上空からキエェェェェ!という甲高い鳴き声が自然の中に飛び込んだ。
少年がゆっくりと目を開け、真上を見れば、鷹のような魔物が少年を獲物と認識して一直線に飛んできている。
少年は右手を引き、腰に合わせた。
数拍の間を置く。
その魔物を黒目でギンッと睨み付け、未だに黒いオーラの纏わり続ける右手を突き上げた。
そこから黒炎が光線のように放たれ、魔物に逃げる気も抱かせぬほどの速さで、魔物を包み、また跡形もなく消し去る。
そして……それを見届けることもせず、黒髪の少年は……そこから消えた。
最初のコメントを投稿しよう!