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その後私たちは他愛ない会話に花を咲かし、気付けば学校に着いていた。
校門に立つ先生に挨拶をし、晴也と別れて下駄箱に向かう。
「志乃、おはよう。」
下駄箱でローファーから上履きへと履き替えていると、聞き慣れた声が横から聞こえてきた。
見ると、そこには友人である真木 知佳(マキ トモカ)が立っていた。
「知ちゃんおはよう。」
知ちゃんは私より少し背が高くて、綺麗な見た目とは反してとてもしっかり者の、意外にも気の強い子だ。
でも、裏表のないはっきりとした知ちゃんのその性格が、私は好きでもある。
「今日も寒いね。」
「うん。そういえば今日、最低気温9度なんだって」
私たちの教室は、二階にある。
一階なら、下駄箱沿いの教室だったのだけれど、二階にある。
そして二階に続く階段を登りながら、知ちゃんと私はそんな話をしていた。
晴也とも似たような会話をしたが、まぁとにかく。
「あ、そういえば、知ってる?」
「…なにが?」
突然、思い出したように知ちゃんは声をあげた。
私はいったい何のことかさっぱり分からず、小首を傾げる。
すると知ちゃんは周りを一度見渡し、心なしか声をひそめて、言った。
「『死神』くん、また喧嘩騒動起こしたんだって。」
『死神』とは、私たちと同学年の生徒、久我 優人(クガ ユウト)のことだ。
冷血で寡黙で無表情。
そんな彼につけられた、あだ名が『死神』だった。
そのこともあってか、彼の名を知らない人はほとんどいない。
“そういう”情報に疎(ウト)い私でさえ、知っているほどの人だったのだ。
『久我 優人』という人物は。
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