プロローグ

10/11
前へ
/111ページ
次へ
その後私たちは他愛ない会話に花を咲かし、気付けば学校に着いていた。 校門に立つ先生に挨拶をし、晴也と別れて下駄箱に向かう。 「志乃、おはよう。」 下駄箱でローファーから上履きへと履き替えていると、聞き慣れた声が横から聞こえてきた。 見ると、そこには友人である真木 知佳(マキ トモカ)が立っていた。 「知ちゃんおはよう。」 知ちゃんは私より少し背が高くて、綺麗な見た目とは反してとてもしっかり者の、意外にも気の強い子だ。 でも、裏表のないはっきりとした知ちゃんのその性格が、私は好きでもある。 「今日も寒いね。」 「うん。そういえば今日、最低気温9度なんだって」  私たちの教室は、二階にある。 一階なら、下駄箱沿いの教室だったのだけれど、二階にある。 そして二階に続く階段を登りながら、知ちゃんと私はそんな話をしていた。 晴也とも似たような会話をしたが、まぁとにかく。 「あ、そういえば、知ってる?」 「…なにが?」  突然、思い出したように知ちゃんは声をあげた。 私はいったい何のことかさっぱり分からず、小首を傾げる。 すると知ちゃんは周りを一度見渡し、心なしか声をひそめて、言った。 「『死神』くん、また喧嘩騒動起こしたんだって。」 『死神』とは、私たちと同学年の生徒、久我 優人(クガ ユウト)のことだ。 冷血で寡黙で無表情。 そんな彼につけられた、あだ名が『死神』だった。 そのこともあってか、彼の名を知らない人はほとんどいない。 “そういう”情報に疎(ウト)い私でさえ、知っているほどの人だったのだ。 『久我 優人』という人物は。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加