日常

3/5
前へ
/111ページ
次へ
 まだ寒さの残る翌日。 私はまた、コートの中に服を着込んで登校した。 今日は昨日ほど気温は低くないと聞いたが、それでも外気はずいぶんと冷え込んでいる。 だから念には念を押して、服を重ね着してきた。 しかし押しすぎたその結果、かなりの厚着になってしまったが。 しかもおかげで何だか小太りに見える。 『…悪く言って、ドラム缶』  今日も朝が一緒になった晴也は、そう言って私をからかった。 “ドラム缶は工場へ帰れ”と。 もちろんそれには従わず、きちんとこうして学校に来たが。 何て思い返していると、 「…志乃、すごいもこもこだね。」 教室に入り、自分の机へと席に着いた私の姿を見て、開口一番に知ちゃんはそう呟いた。 それはまるで、今までに見たことのない珍獣を初めて目にした時のような、新鮮な驚き方だった。 続けて言う。 「…コート、脱がないの?太って見えるよ?」 ずばりと、一切取り繕った風(フウ)のない言葉が告げられた。 きっと知ちゃんは、『歯に衣を着せる』という諺(コトワザ)を知らないはずだ。 「…やっぱり、そうだよね。」 それにかなり傷ついた私は、少し悩んだあと、渋々コートを脱いだ。 けれど思っていたより、それほど外気は寒くはなかった。 教室の後ろに取り付けられたロッカーにコートをしまいながら、私は一人、その事実に関心していた。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加