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次の授業までの10分休み。
教科書を机にしまっていた私の元に、いくつかの教材を手にした糸田先生が、ゆっくりとした足取りでやって来た。
「澤村、ちょっといいか。」
前髪を右に流したスタイルに、少し細めの目。
きっちりと着こなされたスーツ。
三十代後半だという糸田先生は、どこか遠慮がちに、そう私に呼び掛けた。
「はい、いいですよ。どうしたんですか?」
「悪いがこれを資料室に持っていってほしいんだ。どこか適当に置いてくれていい。しまった後は、部屋に鍵をしてくれ。今は開(ヒラ)きっぱなしにしているから。」
「分かりました。」
承諾すると、先生は「悪いな」と薄く笑った。
それから私は、先生が手に持っていた歴史の教材と少し長めの鍵を受け取った。
教材は分厚いものから小さいものまで様々。
七冊くらいあり、手に持った瞬間ずっしりとした重みがのしかかってくる。
「じゃあ、頼む。」
先生はそう言い残すと、背を向けて教室を出ていった。
来たときとは違って、早足に。
私はその後ろ姿を見送ったあと、預けられた教材を抱えるようにして立ち上がり、急いで教室を出た。
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